■歌会始の儀
3月26日午前10時30分、宮中において、歌会始の儀を行われた。
御製、御歌、皇族の詠進歌、召人及び選者の詠進歌並びに選歌は、次のとおりである。
実
御 製
人々の願ひと努力が実を結び平らけき世の到るを祈る
皇后宮御歌
感染の収まりゆくをひた願ひ出て立つ園に梅の実あをし
皇 嗣
夏の日に咲き広ごれる稲の花実りの秋へと明るみてくる
皇嗣妃
竹籠に熟るる黄色の花梨の実あまき香りは身に沁みとほる
眞子内親王
烏瓜その実は冴ゆる朱の色に染まりてゆけり深まる秋に
佳子内親王
鈴懸の木から落ちにし実を割りてふはふは綿毛を空へと飛ばす
正仁親王妃 華 子
野鳥くる実のなる木々に植ゑかへて君は若かる庭師と語る
寛仁親王妃 信 子
実りある日のくるためにながさるる汗は力となるを信ずる
彬子女王
地図帳にあの日見つけし茶畑の不思議な点は茶の実のかたち
憲仁親王妃 久 子
戸隠の森にはびこる蔓柾赤き実を食むは眉茶鶇か
承子女王
自室より画面越しにて繋がりて旅せぬ集ひも実現したる
召 人 加賀乙彦
千年を生きむ樟の木が実在し巡りて子らは駆けつこをする
選 者 篠弘
野に棲めば己がからだは実たされて銀杏黄葉を両手に掬ふ
選 者 三枝昂之
軒下の甲州百目まろやかにこのあめつちの実り明るむ
選 者 永田和宏
若き日の実験ノートに残されて芙蓉のごとき歌の断片
選 者 今野寿美
写実派が鳥の巣ゑがきその底のたまごふたるの聖なる斑
選 者 内藤明
いましばし眠りて待たむ茂り合ふ生命の樹に実の色づくを
選歌(詠進者生年月日順)
秋田県 柴田勇
大学の実験室は旧兵舎窓辺に寄りて目盛りを読みぬ
福井県 杉崎康代
見合ひ終へあなたの母から門前でゆすらの紅実てのひらにうく
三重県 加藤京子
此処よりは世界遺産と言ふ森の土やはらかし橅の実落ちて
埼玉県 渡邊照夫
台風の進路予測を聴きながらまだ少し若い梨の実も獲る
神奈川県 松山紀子
実践に臨む瞳のあどけなさロボットはわが言葉聴きをり
東京都 石井豊彦
今日からは臨床実習の冬の朝少し足早に聖橋渡る
広島県 山本美和
シールドの向かうの客に釣り渡す架空のやうな現実にゐる
東京都 吉田直子
空白に史実のピース集めても想ひつかめぬ歴史のパズル
長野県 木下玲奈
せんせいと子らから呼ばれ振り返り実習生は先生となる
新潟県 藤井大豊
七限の書道の授業は「実」の文字最後の払ひに力を込める
2021年3月31日 官報第463号